引越しの儀式、どうやるの?
~新しい家を買ったなら~

2015年09月07日公開

ベトナム人配偶者を持つ在住日本人の中には、家やマンションを購入する予定だったり、配偶者の両親の家を建て替えて一緒に住むことになった、なんて人もいるのではないでしょうか。ベトナムでは新しく家を買ったり改築したりして引越しする際、 Lễ Nhập Trạch (レーニャップチャック、入宅式) という儀式を行います。普段特に信心深くない人であっても、やはり人生で最も大きな買物である家にまつわることとなると慎重になる人が多く、付け焼刃ながらも色々な人から情報を仕入れて伝統儀式を執り行います。この儀式は基本的に先祖に捧げるものなので、キリスト教徒でも行います。

かくいう筆者の夫(ベトナム人・無宗教)も、このたびマンションを購入した際、友人やネットの情報を頼りに簡単な儀式を行いました。その模様を交えつつ、このLễ Nhập Trạchがどのようなものかを紹介します。

まず「良い日時」を選ぶ

まず、引越しをするのに相応しい日にちと時間を選ばねばなりません。たいてい、ご近所にはこの手のことに詳しい人がおり、占いと暦が合体したような「Tử vi(トゥヴィ)」という本を持っています。ベトナムの場合は中国の風水と同様、生まれた生年月日(旧暦)をもとに占います。

この本はお寺の前などで売られていますが、最近は、ネット上で新暦の生年月日を入力すれば自動的に良い日、悪い日が調べられるようになりました。例えば、下のページでは、その月の中で引越しするのに相応しい日時を調べることができます。

http://tracuu.tuvisomenh.com/xem-ngay-tot-xau/xem-ngay-chuyen-nha

Ngày/tháng/năm sinh(日/月/生年)のところに、家主となる人の生年月日を入力して「Xem(見る)」のボタンを押すと、「Xem ngày tốt nhất chuyển nhà, nhập trạch(引越しに最も良い日)」「Xem ngày tốt chuyển nhà, nhập trạch(引越しに良い日)」「Ngày xấu nên tránh chuyển nhà(悪い日なので引越しを避けるべし)」が表示されます。

我が家では、内装工事が終わりに近づいたので、引越しの日柄を調べたところ、その翌日が最も良い日であることが判明したので、まだ完全には出来上がっていないうちにあわてて儀式を行い、主な荷物を搬入しました。 この儀式を行わないうちに前の家から荷物を運び込んではいけない とされており、気を利かせたつもりで先に運び込むと怒られるかもしれません。注意しましょう。

儀式に用意するもの

儀式に必要となるお供え物は、地域や人によって異なると思いますが、だいたい以下の通りです。

・果物(5種類)
・生花(黄色い菊が一般的)
・線香
・赤いろうそく2本
・茹でた豚ばら肉、エビ、アヒルの卵を載せた皿
・おこわ
・丸ごと茹でた鶏
・紙銭(死者に捧げるニセモノの紙幣)
・塩と米を載せた皿
・塩・米・水をそれぞれに入れた小さな容器
・茶を注いだコップ3つまたは5つ
・酒を注いだコップ3つまたは5つ
・タバコ3本
・切ったビンロウの実3切れとキンマの葉3枚

ちなみに、用意するものがだいたい奇数になっていますが、ベトナムでは「奇数=陽」「偶数=陰」とされており、奇数は「生者」の数であり、縁起の良い数字なんだとか。家の階段の段数や窓の数も奇数になるよう作るのだそうです。


© NgBK

このように入り口に向かってテーブルを設置し、その上に供物を並べます。我が家で用意した供物はかなり簡略されていて、丸茹でした鶏肉やビンロウの実、おこわなどがありません。これでいいんでしょうか・・・。夫がこのようなお供えをしたのは、去年初めてホーチミン市で過ごしたテトのときと今回の僅か2回。人に「やるんでしょ?」と言われて初めて気づいて用意したという感じなので、全く慣れていません。我が家は核家族なのですが、やはり親と一緒に暮らしていないといろんな習慣が伝わらなくなってしまうんだなあと感じます。


© NgBK

用意した果物。ナシ、 釈迦頭(マンカウ) 、オレンジ、 マンゴスチン リンゴの5種類。夫いわく「なんでもいい」そうですが、見栄えの良い高級目の果物を選んだようです。


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写真左は茹でた豚ばら肉、エビ、アヒルの卵。右は塩と米をお椀に入れたものです。


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お酒とお茶を注いだ小さなコップは、3つまたは5つずつ用意するのですが、夫は間をとったのか、コップが足りなかったのか知りませんが、お酒を5つ、お茶を3つ用意していました。お茶は電気ポットや電気コンロではなく、ガスコンロなど火がでるもので沸かした湯を使わなければならないそうです。

儀式の手順


© NgBK

まず、線香3本に火をつけ、祈りをささげます。なんともまあ今時な、ネット上にお祈りの雛形がたくさんあり、夫はそれをiPadで見ながら唱えています。「 “Lễ Nhập Trạch” “Bài văn khấn” (祈祷文フォーマット)」で検索すると、雛形がたくさん出てきますので、参考にすると良いでしょう。


© NgBK

ガス台、家の玄関前でも、線香3本に火をつけて祈りを捧げ、線香を立てます。

線香が燃え尽きつきたら、家の入り口で紙銭を燃やし、塩と米を地面に撒きます。お供え物は家族で食べます。

マンションの場合、防災上部屋の入り口で紙銭を焼くことはできません。人によってはマンション全体を一つの家として捉え、マンションの門の前で紙銭を燃やすようですが、マンション内に焼く場所が設けられている場合もありますので、守衛に確認をとってから行うようにしましょう。

なお、ベトナムでは「妊婦=穢れ」の考え方があるため、妊婦は家族であってもこの儀式には参加できません。

引越しの手順

儀式が終わったら、いよいよ引越しです。引越しにも順番があります。夫婦と子供で構成される核家族の場合の例を紹介します。

(1)妻は丸い鏡を持ち、鏡の面を進行方向に向け、家の中に入る。
(2)夫は先祖を祭る祭壇の線香立てを持って家に入る。
(3)続いて、他の家族は、ガス台、寝具、米、水、塩、貴重品を順番に持って入る。
  決して手ぶらで入ってはならない。

また、寅年の人と妊婦は引越しを手伝うことはできません。妊婦が手伝う場合は、真新しい箒で家の中を掃くことのみできるとされています。

伝統儀式は家族みんなのため

外国人だけで住む分にはこういった儀式をやることに大きな意味はないかもしれませんが、ベトナム人の家族と暮らす場合は、この儀式によって家族が気持ちよく過ごせるかどうかが変わってくると思います。「あのとき、あなたがちゃんとやってくれなかったから、この家に災難が降りかかってくるのよ!」なんてことを言われたりしないよう、家族の意見をよく聞いて執り行うのが無難かと思います。

また、家の引越しだけでなく、事務所の移転、改装のときにも、同様の儀式を行います。ベトナム人が気持ちよく働けるように、スタッフの意見に従って行うのが良いでしょう。

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