南北で意味が違う越単語8選
~ベトナム人でも通じない?~

2016年03月04日公開

日本語に方言があるように、ベトナム語も北部、中部、南部の各地域ごとにかなり大きな違いがあります。北部の「ザ行」の発音が南部では「ヤ行」になってしまったり、北部では例えば「ả」と「ã」の声調をはっきりと区別するのに、南部ではあいまいだったり・・・。こういったものは聞いているうちに違いの法則がわかるので、何とか理解することができますが、使用する単語が全く違う場合には、理解できずに困ってしまいます。特に、一つの単語が北部と南部で違うことを意味することがあり、ベトナム人同士でも話がかみ合わず「???」になってしまうことも。

ここでは、ベトナム人でも北部・南部の違いで誤解してしまう代表的な単語を8つを挙げてみましょう。

「悲しい」って言いながら笑ってる!?

ベトナム語を勉強している人なら、「buồn(ブオン)=悲しい」と覚えていることでしょう。北部の人も南部の人も同じように「悲しい」という意味で使っていますが、北部の人は、人にくすぐられたりした時にも「buồn」と言います。南部の人は「なんでくすぐられて笑ってるのにbuồnなんて言うんだ!?」と驚いてしまうのですが、 北部の人は「くすぐったい」という意味でも「buồn」を使います。
 

「ビムビム」って何なのさ!?

北部の人の会話、特に子供との会話に良く出てくる言葉「bim bim(ビムビム)」。子供が「おかあさん、ビムビム買って!」などと言うのですが、南部のほとんどの人は理解できません。 北部の人が言う「bim bim」は袋入りの「スナック菓子」のこと。 南部では普通「bánh snack(バインスナッ)」と言いますが、北部ではなぜか「bim bim」が一般的になっています。

実は、「bim bim」は、 日本企業が出資している北部の製菓会社「ハイハー・コトブキ」が販売しているお菓子ブランドの名前。 小さな袋入りで1000VND(約5円)という安さで売られています。まだスナック菓子がそんなになかった時代に「bim bim」の販売が開始され、盛んにテレビでコマーシャルが流れたことから、北部では「スナック菓子=bim bim」で定着してしまったのだそうです。ベトナムでバイクのことを「Honda」と呼ぶような感じですね。
 

それじゃこっちの「ビム」は何なのさ!?

また、子供がらみの会話で、北部の人の口からよく出てくるのが、先に挙げたbim bimとちょっと発音が違う「bỉm(ビム)」という言葉。「赤ちゃんのビムを取替えないと」などと言うのですが、これも南部の人にとっては「?」となってしまう言葉です。実は、この「bỉm」は「オムツ」の意味。普通、 南部でも北部でもオムツのことを「tã(たー)」と言いますが、北部では特に、ウェストにゴムが入ったタイプやパンツタイプになったもののことを「bỉm」と言います。
 

イモはイモでもイモ違い

北部の人が「củ sấn(クーサン)食べよう!」と言うので、南部の人が「大好物なの。うれしい!」と喜んでいたところ、出てきたものが想像していたものと全く違っていた・・・、ということがあります。

北部ではキャッサバ(上の画像左、タピオカの原料ともなるイモ)のことを「củ sấn」 と言いますが、 南部で「củ sấn」と言うと、丸っこいマメ科の植物の根っこ ヒカマ(上の画像右、日本ではクズイモとも) のこと を指し、キャッサバのことは「củ khoai mì(クーコアイミー)」と言います。一方、北部ではヒカマのことを「củ đậu(クーダウ、マメの根)」と呼びます。

キャッサバはふかして食べると甘さ控えめのサツマイモみたいな感じ、生のヒカマはみずみずしくサクサクしていて、ほんのり甘く、ナシとジャガイモを足したような味です。
 

マンカウはマンカウでしょ!?


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上の画像の果物、日本ではどちらもシャカトウ(釈迦頭)と呼ばれている果物。 南部でも、両方とも「Mãng cầu(マンカウ)」と呼ばれています。 写真の大きいほう(トゲバンレイシ)は繊維質が多いので、もっぱらシントー(フルーツスムージー)にして飲まれることが多く、小さいもの( バンレイシ )はねっとりとした食感がおいしいのでそのまま食べます。両者を区別する必要があるときは、小さいほうを「Mãng cầu ta(マンカウター=私たちのマンカウ)」大きいほうを「Mãng cầu Xiêm(マンカウシエム=タイのマンカウ)」と呼びます。

でも、 北部のほうではこの二つをきちんと呼び分けて、大きいほうを「Mãng cầu」、小さいほうを「Na(ナー)」と言います。 そのため、北部の人が「Na」といっても、南部の人にはほとんど理解してもらえません。
 

マンはどちらも赤い果物だけど・・・・

「Mận(マン)」は北部でも南部でも赤い果物ですが、ぜんぜん違う果物を指します。 北部で「Mận」と言えば甘酸っぱいスモモ(画像左)のことですが、南部ではみずみずしいミズレンブ(画像右)のこと です。「マン食べたいなあ」と思ったとき、北部の人は口から唾が沸いてくるかもしれませんが、南部の人は喉の渇きを覚えるかもしれませんね。
 

これじゃ食べられない!!!!


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北部の人がレストランに入り、スパゲティを食べようとしたけれど、フォークがない。「すみません、フォークください」と頼んだところ、出てきたのはなぜかお皿だった・・・「どうやって食べろって言うの!?」なんていう笑い話があります。

北部の人はフォークのことを「dĩa(ジア)」と言いますが、南部では「dĩa(ジア/イア)」はお皿のことを指します (お皿は一般的には「đĩa(ディア)」ですが、南部の口語ではdĩaが一般的)。南部ではフォークのことを「nĩa(ニア)」と呼びます。
 

お茶碗でお茶飲むの!?


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北部では「chén(チェン)」と言えば、お茶を飲む小さな湯飲みのことですが、南部ではご飯を食べるお茶碗のことを「chén」と言います。 北部でお茶碗は「bát(バット)」。なので、北部の人がお茶を淹れようと思って「チェンとって~」と南部の人に言ったら、お茶碗がきてしまうわけです。

よく考えたら、日本語もご飯を食べるのに「茶碗」て言うけれど、不思議だなと思って調べてみたら、もともと「茶碗」はお茶をたてるための陶器の器を指していましたが、お茶を飲む風習が広まるにつれて、陶器の総称として「茶碗」が用いられるようになり、その後ご飯を盛る器のみを「茶碗」と言うようになったんだそうです。ベトナムにもそういう言葉の変遷があるのかも。

また、言語学では文化の中心地から同心円状に見たとき、中心に近い地域は新しい言葉に変化するのに、中心から離れるほど変化が伝わらず、古い言葉が残る、という説があります(方言周圏論)。昔のベトナム文化の中心は北部ですから、南部は辺境の地。南部のほうが古い言葉が残っているのかもしれませんね。
 

ここで挙げた以外にも、例えば北部では「(道などを)曲がる」というときに「rẽ(ゼー)」と言いますが、南部では「quẹo(ウェオ)」と言うのが普通、といった具合に、南北で違う言葉がたくさんありますので、皆さんも探してみてください。
 

<参考記事>
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