ベトナム国歌はどういう曲?
~Tiến Quân Ca(進軍歌)~

2015年06月03日公開

「ベトナムの国歌はどういう曲?」と聞かれて、すぐに答えられる在住日本人はそれほど多くはないと思いますが、式典に出席したり、サッカーVリーグなどスポーツの公式戦を観戦したことがある人はきっと耳にしたことがあるはず。でも、聞いただけでは歌詞の内容までわかりませんので、今回はベトナムの国歌について詳しく紹介したいと思います。


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ベトナムの国歌は「進軍歌」

ベトナムの国歌の題名は「Tiến Quân Ca(ティエンクオックカー)」と言います。そのまま漢字にあてると「進軍歌」です。題名から見てわかるとおり、歌詞の内容は敵を恐れず祖国のために進軍する決意を表したものです。

国歌は、1944年に北部ハイフォン出身の音楽家グエン・ヴァン・カオ(Nguyễn Văn Cao)により作詞・作曲されました。1944年といえば第2次世界大戦末期、ベトナムがまだフランス領インドシナと呼ばれていた時代です。そして日本軍が1941年からベトナムへ進駐。フランスの植民地政府と日本軍からの食糧徴発、米軍の空襲による南北間の輸送断絶などで、1944年秋から北部一帯に深刻な飢饉が発生した苦難の時代でした。

1945年3月に日本軍によりフランス植民地政府が倒され、ベトナムのグエン(阮)朝が日本の傀儡政権である「ベトナム帝国」を樹立します。8月15日に日本軍が降伏すると、その2日後にベトナム独立同盟会(ベトミン)が八月革命を起こし、9月2日にホー・チ・ミン主席が独立を宣言して社会主義の「ベトナム民主共和国」(~1976年)が誕生します。「進軍歌」は、このベトナム民主共和国で国歌として採用されました。

しかし、ベトナムの苦難の時代はまだまだ続きます。フランスが再度進駐し、1946年12月には第一次インドシナ戦争が勃発。1954年に終結しますが、今度はジュネーブ協定により北緯17度線でベトナムは南北に分断されてしまいます。そして、ベトナム戦争へと突入していくのです。つまり、この「進軍歌」は、1945年から1975年にベトナム戦争が終結するまで、祖国の独立及び統一のため敵に立ち向かう兵士たちを鼓舞し続けたのでした。そして、1976年に誕生したベトナム社会主義共和国の国歌として採用され、今日に至っています。

それでは、どのような曲か聴いてみましょう。

国歌は2番まであるのですが、公式に歌われるのは1番のみのため、ベトナム人でも2番まで正確に覚えているという人は多くありません。歌詞は以下の通りです。

ベトナム語 日本語訳
1番
Đoàn quân Việt Nam đi chung lòng cứu quốc ベトナム軍はゆく、救国の心で
Bước chân dồn vang trên đường gập ghềnh xa 遠いでこぼこ道に足音が響く
Cờ in máu chiến thắng mang hồn nước 戦勝の血で染まった旗は国の魂を帯び
Súng ngoài xa chen khúc quân hành ca 進軍歌とともに銃声が遠くで鳴り渡る
Đường vinh quang xây xác quân thù 敵の屍により栄光の道を築く
Thắng gian lao cùng nhau lập chiến khu 労苦に勝ち、共にゲリラ拠点を構える
Vì nhân dân chiến đấu không ngừng 人民のために留まることなく戦う
Tiến mau ra sa trường 戦場へ直ちに進む
Tiến lên, cùng tiến lên 進もう、共に進もう
Nước non Việt Nam ta vững bền 我が国ベトナムの山河は永遠なり
2番
Đoàn quân Việt Nam đi sao vàng phấp phới ベトナム軍は進む、はためく黄色い星の下に
Dắt giống nòi quê hương qua nơi lầm than 国の民族を苦境から解き放つ
Cùng chung sức phấn đấu xây đời mới 新しい未来を築くため共に闘い
Đứng đều lên gông xích ta đập tan 一斉に奮起して枷鎖(かさ)を打ち破る
Từ bao lâu ta nuốt căm hờn 長きにわたり憎しみを抱いてきた我ら
Quyết hy sinh đời ta tươi thắm hơn 美しい未来を手にするため、犠牲を決意する
Vì nhân dân chiến đấu không ngừng 人民のために留まることなく戦う
Tiến mau ra sa trường 戦場へ直ちに進む
Tiến lên, cùng tiến lên 進もう、共に進もう
Nước non Việt Nam ta vững bền 我が国ベトナムの山河は永遠なり
  • 年代ごとにその時代背景にあわせて、原曲から一部歌詞が変えられています。上記は現在のものです。

学校では毎週必ず歌う

日本で国民が国歌を歌う機会はさほどありませんが、ベトナムでは小学校から高校まで、毎週月曜日に国旗を掲揚する際、全員で国歌を歌います。そのため、国民にとって国歌は非常に身近なものです。ただし、子供が歌うのには内容がちょっとと思う人や、平和な現代に合わない、と考える人もいます。

実は一度、1981年にベトナム国歌を変更しようという動きがありました。1980年に憲法が改正されて「敵国=米国」の文言が削除されたことを受け、戦争色の強い国歌を見直そうと考えが広まりました。そして、新国歌コンテストが開かれたのですが、「進軍歌」に優るふさわしい曲がなかったようで、変更されませんでした。

なお、ベトナムの国歌はかつて、南ベトナムの人にとって敵国の歌であったことも念頭におく必要があるでしょう。