端午節(殺虫の日)
~ベトナムの旧暦5月5日~

2016年06月08日公開

旧暦5月5日は端午節。 日本では新暦5月5日が端午の節句で、「子供の日」の祝日となっていますが、ベトナムの端午節は子供の日ではありません。

ベトナム語で端午節のことを、 Tết Đoan Ngọ(テットドアンゴ=端午節) または Tết Đoan Dương(テットドアンズオン / テットドアンユオン=端陽節) と言います。また、1年の真ん中の節ということで Tết giữa năm(テットズアナム / テットユアナム、giữa=間、năm=年) と言うこともあります。

この時期は、北部・中部では本格的な夏を迎え、南部では雨季に入り、虫がわきやすい季節。そのため、農作物や樹木の殺虫を行う「殺虫の日」とも呼ばれています。ベトナム語では、 Tết giết sâu bọ(テットジエットサウボ、giết=殺す、sâu bọ=虫) です。

メコンデルタ地方では、雨季に入り川が増水に転じる時期で、メコン川のあちこちに渦が巻くことから、Ngày nước quay(ガイヌオッククワイ、水が回る日)とも言うそうです。

端午節は日常生活にはほとんど影響ありませんが、「中休み」の意味合いで、 個人商店では休業するケースもある ので、お買い物の際には注意が必要です。
 

端午節の由来

端午節は中国から伝わったものです。この日を端午節とする風習は、紀元前3世紀の中国戦国時代、楚の国から始まったとされています。

詩人としても知られる屈原(くつげん、ベトナム語でKhuất Nguyên=クアットグエン)は、楚の国に仕え、人望が厚く極めてすぐれた政治家でしたが、嫉妬した同僚らの陰謀で失脚し、国を追われてしまいます。その間に西にあった秦に攻められ楚の都が陥落してしまい、国の将来を絶望した屈原は汨羅江(べきらこう)に身を投げて死んでしまいました。


屈原

中国でも日本でも、そしてベトナムでも端午節にちまき(粽)を食べる習慣があります。これは、人々が屈原の亡骸が魚に食べられないよう供物を川に投げ入れたのが起源なのだとか。せっかく投げ入れた供物を川に棲む龍が片っ端から食べてしまったため、龍が嫌う笹の葉にご飯を包んで川に投げるようになり、これがちまきに進化していったと言われています。また、中国で行われるドラゴンボートレースも、入水した屈原を助けるために民衆が先を争って船を出したという故事に由来するそうです。

「端午」という名になったのは、元々は5月の最初(つまり「端」)の午(うま)の日だったためで、三国時代の魏の国により5が重なる5月5日に定められたということです。3月3日、7月7日、9月9日といった具合に奇数が重なる日が節句となっていますが、これは中国の陰陽道で 奇数(陽)が重なって偶数(陰)になる不吉な日 とされており、災いを祓うために行事が行われるようになったようです。5月5日が端午節となったのもこの陰陽道の考え方によるものです。
 

端午節のちまき

ベトナムでは端午節の当日、あちこちでちまきが売られているのを目にします。たいてい10個セットで売られていますが、頼めばバラ売りしてくれます。一つ一つが小さいので、10個買っても3万VND(約145円)程度と安いです。


© NgBK、市場の軒先に吊るされた端午節のちまき

ベトナムのちまきは、三角錐の形のもの。 bánh tro(バインチョー)、bánh gio(バインゾー)、bánh ú(バインウー)、bánh ú tro(バインウーチョー) などと呼ばれています。ほの甘い素朴なお菓子です。


© VIETJO Life, 竹の葉に包まれた餡入りのちまき

lá tre(ラーチェー、竹の葉)やlá dong(ラーゾン、フリニウム・プラケンタリウム)、lá chuối(バナナの葉)などさわやかな香りの葉にもち米をくるみ、茹でて作ります。灰汁またはかん水(nước tro)につけたもち米を使うため、少し透き通るような茶色に仕上がります。緑豆の餡が入っていますが、時々ドリアン(sầu riêng、サウリエン)が練りこまれたものもあるので、買うときには注意が必要です。


© VIETJO Life, 餡入りのちまきを割ったところ

伝統的な作り方では餡を入れず、砂糖をまぶして食べます。日本人的には、黄な粉や黒蜜をまぶして食べたいですね。


© NgBK, 餡なしのちまき

また、「殺虫の日」ということで、体の中の虫も殺虫する、つまり虫下しする意味合いで、炊いた米または餅米を発酵させて作ったお酒のおやつCơm rượu (南部:コムルオウ、北部:コムズオウ) を食べる習慣もあります。北部では白または黒い餅米で、南部ではご飯を丸めたもので作ります。実際に寄生虫を殺虫するというより、体の中の「邪気を祓う」という考え方のようです。北部から北中部では、端午節にアヒル肉を食べる風習があります。


© Vietjo Life 左が南部、右が北部の黒い餅米のCơm rượu (コムルオウ/コムズオウ)

厄払いで薬草を戸口に吊るす

端午節になると、市場で薬草を束ねたものが売られるようになります。これを戸口に吊るし、邪気が家に入らないようにする慣わしがあります。この薬草を吊るすと風邪を引かないと言われているのですが、実はベトナムでは5月頃にインフルエンザが流行する傾向があるので、人々の間で風邪にかかりやすい時期と認識されているのかもしれません。


© NgBK, 家の戸口に吊るされた薬草の束

束には5種類またはそれ以上の薬草が含まれています。主な薬草は、次の5つです。

bạch đàn(バックダン) :ユーカリ
・xương rồng(スオンゾン / スオンロン):サボテン
ngũ trảo(グーチャオ) :ニンジンボク
lá dâu tằm ăn(ザウタムアン) :桑の葉
sả nấu nước xông (サーナウヌォックソン):蒸したレモングラス

また、厄除けとして冥銭(お供え用の偽物の紙幣)を燃やす家も多いです。


© NgBK, 冥銭を燃やす人
 

ベトナム人の多くは端午節の由来を知らない!?

周りのベトナム人に聞いてみても、端午節の由来となっている屈原について知っている人は殆どおらず、特に若い人は「ちまきを食べる日」「虫を退治する日」とだけ認識している人が多いです。周りのベトナム人に、もともとの由来や日本の端午の節句について教えてあげると、興味を持ってもらえるかもしれませんね。

 
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