北では四角、南では丸い?
~北部と南部のテトの違い~

2016年01月22日公開

日本でも地域によってお正月の習慣の違いがあるように、ベトナムも地域によってかなり異なっています。気候が違えば、テト(旧正月)の時期に咲く花も、食べるものも変わるわけです。そこで、北部と南部のテトの違いを紹介したいと思います。

「サイゴンとハノイのテトの違い」

Youtubeに「Khác biệt tết Sài Gòn – Hà Nội(カックビエット テット サイゴン ハーノイ)/ サイゴン(ホーチミン市)とハノイのテトの違い」というスライドショーがアップされていましたので、これに書かれている文章をもとに10の違いを紹介していきたいと思います。

 

北部は肌寒くてよく霧雨が降る、南部はよく晴れて暖かい

「まずは気候の違いに触れねばならない。テトの日、北部は肌寒く、よく霧雨が降るが、南部は晴れて暖かい。気候も、人々の着こなしの違いなど地域それぞれのテトの違いをつくる要素となる」

テトの時期(1~2月)のハノイの気温は、13~14℃程度まで下がり、霧雨が降って湿度が高いため、体感温度はそれよりもっと低く感じられます。一方のサイゴンは、1年で最も過ごしやすく、最低気温が20℃ぐらいまで下がることがありますが、日中は30℃を越えます。乾季でカラっと爽やかな暑さです。この天候の違いが、ハノイの人は家の中に集い、サイゴンの人はみんなで外に遊びに出かける、という行動の違いに繋がっているのかもしれません。
 

北部の人はテトに桃の花をめでる、南部の人はテトに梅の花をめでる

「北部の人のテトを象徴するのは桃の花であり、南部の人にとっては梅の花である」


© NgBK

北部は寒い気候なので、桃(đào)の木が自生しています。元々中国で桃は魔よけの力があるとされているほか、桃の花(hoa đào)は「良縁を招く」と旧正月に好んで飾られており、その文化がベトナムにも伝わっていると思われます。これに対して年中暑い南部では桃は育ちません。同様に梅(mai)も育たないのですが、梅に似た5弁の黄色い花を咲かせる通称「ミッキーマウスの木」(学名:Ochna integerrima)を梅の花(hoa mai)に見立てています。
 

北部の人はバインチュンを食べる、南部の人はバンテットを食べる

「基本的にどちらのちまきも材料については同じだが、バインチュンは四角く、バンテットは円筒状に包まれる」


© NgBK

北部、南部ともに、お正月の食卓には「ちまき」がつきもの。但し、名前と形が違います。北部ではバインチュン(bánh chưng)と呼ばれる一辺20cmほどの四角いちまき、南部ではバンテット(Bánh tét)という長さ30cmほどの円筒状のちまきを食べます。中身は基本的に、どちらも豚ばら肉とすりつぶした緑豆を使いますが、地域によっては中身が全く違う場合もあるようです。はっきりした味がないのと全体的に油っぽいため、残念ながら外国人に不評な料理の代表格です・・・。

北部の人はタマネギの漬物を食べる、南部の人はモヤシの漬物を食べる

「北部の人は普通、テトにタマネギの塩漬けを食べるが、南部の人はモヤシの漬物を食べる」


© NgBK, 左は北部のタマネギ漬け、右は南部のラッキョウ漬け

南部では普段から、モヤシと細く切ったニンジンを甘酸っぱく漬けたものを食べ、特にテトには欠かせません。お正月にはラッキョウの甘酢漬けを食べることも多いです。これに対して北部ではラッキョウではなく小さな紫タマネギを漬けたものを食べます。外見は似ているのですが、お酢を使わない場合もあり、甘さよりもしょっぱさが勝っているので、ラッキョウ漬けとは全く違った味わいです。
 

北部の人は年初に卵を食べない、南部の人はテトに豚肉とアヒルの卵の煮物を食べる

「北部の人は、卵の形が『ゼロ』に似ていることから、年初に卵を食べるのを控える。南部の人は通常、テトにアヒルの卵と肉の料理を食べる」


© NgBK

Thịt kho trứng(ティットコーチュン)は代表的なベトナムの家庭料理で、テトだけでなく普段から全国的に食べられています。Thịtは「肉」の意味ですが、この料理では皮付きの豚ばら肉かたまりを使います。khoは煮込む、trứngは卵。卵は普通、鶏卵ではなくアヒルの卵を使います。南部の人はおせち料理のようにたくさん作り置きしてテト期間中食べるのが慣わしですが、北部ではテト期間中、卵を丸ごと使った料理を避けるようです。ちなみに、なぜ鶏卵を使わないかというと、アヒルの卵のほうが白身が堅くて割れにくいので、鶏卵より煮物に適しているとのこと。黄身が汁に溶け出すと痛みやすいため、作り置きするテトの場合は必ずアヒルの卵を使います。
 

テトのスープと言えば、北部はカインボンビー、南部はカンコークア

「北部のテトの日の特別な料理は豚の皮のスープだが、南部では肉を詰めた苦瓜のスープである」


© NgBK

どの家庭でもというわけではないようですが、北部でテトの食卓に上がるスープは、カインボンビー(canh bóng bì)、豚の皮を使ったスープです。日本だと豚の皮は食べませんが、ベトナムでは肉についたまま食べるだけでなく、皮をわざわざ加工して食べます。このスープに使われている皮は干してから揚げてあり、スカスカのものです。

一方、南部で食べるカンコークア(canh khổ qua hầm)は肉詰め苦瓜のスープ。苦瓜(khổ qua)は「困難(khổ)が過ぎる(qua)」という意味になることから、縁起が良いとされているそうです。

北部の人はお供えの5つの果物にバナナを入れる、南部の人はバナナを入れない

「5つの果物を供える際に北部の人は、春の良いことが手に入るようにという意味をこめ、手の平の形に似たバナナを盛り込むが、南部の人は、バナナ(chuối、チュオイ)の音が体をかがめる(chúi、チュイ)と似ており、不作や事業が下向きになるという意味で忌み嫌う」


© NgBK

テトには5種類の果物をお供えするのが慣わしですが、地域によって果物の種類が違います。北部、中部のテトのお供えにはバナナがあるのに、南部ではあまり使われません。南部の発音だとchuốiをチュウイと発音するため、chúiの発音により近くなります。

ちなみに南部のテトのお供えは、言葉遊びのようになっています。南部では主に、マンカウ(mãng cầu、釈迦頭)、ユア (dừa、ココナツ), ドゥードゥー(đu đủ、パパイヤ)、ソアイ (xoài、マンゴー)、スン (sung、イチジク) の5つの果物ですが、これをつなぎ合わせて、 「cầu vừa đủ xài sung(カウユアドゥーサイスン) →(お金が)十分にあって充足した生活でありますように」という意味になるのだとか。南部ではオレンジ(cam、カーム)も避けます。オレンジは「quýt làm cam chịu(ミカンのした悪事の報いをオレンジが受ける)」 、つまり、「他人のせいで自分が損する」という意味の諺があるため、 縁起が良くないとされています。
 

北部の人は鯉を川に流す、南部の人にはこの風習がない

「オンコン・オンタオの日、北部の人は鯉を供えたあと、川に流す。南部の人にはこのような習慣がない」


© NgBK

旧暦12月23日は「オンコン・オンタオ(ông Công ông Táo)」と呼ばれる台所の神様の日。 この日にオンコン・オンタオが鯉に乗って天に戻り、 上帝にその家の1年間の出来事を報告するのだそうです。北部では鯉をお供えし、その後湖や沼に放すのが習慣になっていますが、南部にはこの習慣はなく、北部出身者が一部やっているだけです。
 

北部の人はテトに招いた客に茶と菓子をふるまう。南部の人は家族と一緒に酒を楽しむ

「客が家に来たら、北部の人はお茶と菓子を振舞い、畏まって歓談するが、南部の人は食事を並べて酒を飲む」

南部では元々、家に客が来たときに出す飲み物といえば「水」が普通で、お茶を振舞う習慣がありません。テトにはどの家庭も伝統的なお菓子を用意しますが、北部では男性も女性もお菓子を食べながらおしゃべりするのに対し、南部では男性の場合お菓子を食べることはあまりなく、どこへ行ってもまずは酒盛りです。
 

北部の人は客を家に迎えるかテトの挨拶まわりに、南部の特にサイゴン人は旅行に行く

「南部のほうが春を景色を楽しみに出かける風潮が発展している」

ハノイは寒く南部は暑いという気候のせいも大きいかもしれません。やはり暑いほうが外に出かけたいと思うもの。また、北部のほうがしきたりを重んじる傾向が強いので、テトのお供えや新年の挨拶回りをきちんとこなさなければならないと考えている人が多いのかもしれません。また、サイゴンの人はやはり経済的に豊かなのも理由でしょう。

 
北部と南部の違い、いろいろありますね。地域によってまだまだ風習の違いがいろいろあるようです。ベトナムでテトを過ごす皆さん、色々観察して発見するのも面白いと思いますよ。
 

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