赤ちゃんの名前どうする?
~日越カップルの命名方法(1)~

2015年07月17日公開

日本の厚生労働省の2013年統計によると、夫婦の一方が外国籍の婚姻(国際結婚)は2万1488組で、全体の3.25%、30組に1組の夫婦が国際結婚なんだそうです。以前に比べればかなり多くなったとは言え、まだまだ少数派ですよね。でも、日本にいるとき外国人と結婚するなんてことを想像してもみなかったのに、ベトナムに住むことになると周りはベトナム人ばかりで、国際結婚に至った人も多いことでしょう。そして、結婚という大きな決断の次にしなければならない夫婦の大きな決断の一つに、 生まれてくる子供の名前 があります。日越カップルの子供の名前はどのように命名されているのでしょうか。ここでは、日本とベトナムの両方で子供の出生を届け出ることを前提に、いくつかのパターンを紹介します。

命名のパターン

日越カップルの命名法には、主に以下の6パターンが考えられます。

(1)日本人が日本名を、ベトナム人がベトナム名を別々に命名する
(2)日本名とベトナム名の意味と発音が同じになる名前にする
(3)日本名とベトナム名の発音だけが同じになる名前にする
(4)日本語とベトナム語の意味(漢字)が同じになる名前にする
(5)日本名とベトナム名どちらか一方で統一する
(6)日本風でもベトナム風でもない名前にする

色々まわりに聞いてみると、(3)のパターンが一番多いように思います。それでは、ひとつずつ見ていきましょう。

日本人が日本名を、ベトナム人がベトナム名を別々に命名する

最も苦労しない方法は、日本人が一番付けたい日本名を、ベトナム人が一番付けたいベトナム名をつけることでしょう。日本人が良いと思う意味でもベトナムでは名前につけるのは相応しくないと思われているもの、またその逆のケースが結構あります。夫婦の意向だけではなく、両方の親の意向や先祖代々伝わる習慣などを汲み取ったりすると、日本人同士でも命名には苦労するもの。二つ別々の名前をつけてしまえば、そういった苦労が軽減されるというだけでなく、一つの名前に凝縮しきれない思いを二つの名前に託すこともできます。

日本語とベトナム語の意味と発音が同じになる名前にする

子供のアイデンティティ形成のためにも名前は一つのほうが良い、とお考えの方も多いと思います。以前、「 越語は日本語と似てる!? ~単語の7割が漢字に由来~ 」で紹介したように、ベトナム語の6~7割は漢字が基となっている「漢越語」。国民の大半を占めるキン族や中華系ベトナム人の名前は、漢字に由来する言葉を使うのが普通です。そして、数はかなり少ないですが、ベトナムの漢字の読み方「漢越音」が日本語ととてもよく似ていて、カタカナで書いてしまえば全く同じになるものがあります。

例えば、男児だったら「大(だい)」。「大」の漢越音は「Đại(ダイ)」ですので、日本名でもベトナム名でも「ダイくん」で通ります。女の子だったら「蘭」があります。「蘭」はベトナム語でも「Lan(ラン)」です。

以下は、日本の音読みとベトナムの漢越音が似ており、名前に使っても良いと思われる漢字の例です。

漢字 音読み 漢越音 備考
あい Ái(アイ)
あん An(アン)
Ý(イー)
かい Khai(カイ)
だい Đại(ダイ)
泰、太 たい Thái(タイ)
Trí(チー)
Phú(フー)
ふく Phúc(フック)、Phước(フオック)
Mỹ(ミー)
ゆい Duy(ユイ) (南部発音。北部ではズイ)
悠、遊 ゆう Du(ユー) (南部発音。北部ではズー)
ゆう Dụ(ユ) (南部発音。北部ではズ)
らん Lan(ラン)
れん Liên(リエン)

 
ベトナムの名前については「 「日」が男で「月」が女 ~ベトナム人の姓名(名前編)~ 」に詳しく書きましたが、現在はミドルネームをつけて2文字の名前にするのが一般的です。でも、日本語とベトナム語の発音が全く同じものを2つ組合わせて、日本語でもベトナム語でも同じように良い名前にするのはかなり困難。例えば「美蘭」の場合、「Mỹ Lan」はベトナムで女の子の名前としてポピュラーですが、日本語で「みらん」と読むのは、あまり一般的ではありません。日本名でポピュラーな「愛美」も、ベトナム語で「Ái Mỹ」はちょっと違和感があるそうで、「Mỹ Ái」と逆だと一般的な美しい名前と受け止められているようです。

なので、日越とも同じ漢字を使いたいという場合は、名前を1文字にするか、日本名を「大○」、ベトナム名を「○ Đai」と付けて、名前の主な部分だけに同じ発音を使用して2文字以上の名前にし、ベトナム人にも日本人にも「ダイ」と呼ばせるという方法もあります。また、日本名を一文字にして、ベトナム語名のみミドルネームをつけて2文字にするというのもよいでしょう。

日本名とベトナム名の発音だけが同じになる名前にする

意味と発音両方同じにするのは難しいのなら、音だけを合わせることにすれば簡単?と思うかもしれませんが、これもかなり難しいです。例えば、女性の名前で「Mai(マイ)」という名前はかなりポピュラー。この基の漢字は「梅」ですが、音を漢字にあてて「麻衣」などとつけるのも良いでしょう。但し、これはかなり数が少ないと思われ、筆者は今のところ「Mai」ぐらいしか思いつきません。

日本語とベトナム語の意味(漢字)が同じになる名前にする

やはり発音が複雑なベトナム語と発音が単純な日本語名を合致させるのはかなり難しい。ということで、日越カップルの間で最もポピュラーなのは、発音にこだわらず同じ漢字、つまり同じ意味になるよう命名するという方法です。

例えば、子供に「日明(あきら)」と付けたい場合、「日」は漢越音で「Nhật(ニャット)」、「明」は「Minh」ですので、ベトナム語の名前は「Nhật Minh(ニャットミン)」になります。

また、子供に「珠子(たまこ)」と付けたい場合、ベトナム語では「子」を名前に入れることはまずありませんので、好きなミドルネームをつけて「○ Châu(珠)」とつけるようにすると良いでしょう。「Mỹ Châu(美珠)=女性」「Hoàng Châu(黄珠)=男性」などChâuは男性、女性どちらにもよく使われる名前ですが、どちらかというと女性に多い名前です。

但し、日本語の漢字には日本独自のものがあり、日本の漢字全てに漢越音があるわけではないので、注意してください。漢越語は書店で様々な漢越語辞典を入手できますが、オンライン上でも調べることができます。http://kanji.tudiennhatviet.com/

ベトナム人の代表的な名前は、こちらの記事 を参照してください。

日本名とベトナム名どちらか一方で統一する

日本名とベトナム名を全く同じにしてしまう、という方法です。例えば、ベトナム語で「Minh Châu(ミンチャウ)」と名づけた場合、日本での出生届けにも「みんちゃう」または「ミンチャウ」と記載するというもの。日本の名前は漢字だけでなく、ひらがな、カタカナを使用することもできます。また、「みんちゃう」と振り仮名をふることができる漢字を当てることも可能です。

「ミンチャウ」の漢越語「明珠」を日本語でも名づけて「みんちゃう」とふり仮名をふりたいと考える人もいると思いますが、日本で届け出る際に、 その漢字の「音読み」「訓読み」「名乗り読み(名前に使用する読みとして一般化しているもの)」の3つに該当しないものは受け付けない ことになっていますので、ご注意を。

それでは、日本語の名前をベトナム側の役所に届け出ることはできるのでしょうか? ベトナムの法律では現在、名前がベトナム語で表記できるものであれば届け出ることができることになっていますので、例えば「Akira」という名前をつけた場合、使われるアルファベットはベトナム語でも使用されているものですので、そのまま「Akira」とベトナムで登録することができます。法律上は。

でも、実際には窓口によって対応が違っており、ある地域では受理されたケースでも、ほかの地域では受け付けてもらえないとか、担当者によりけりなんてことも。また、日本でキラキラネームが話題になっているように、ベトナムでも最近外国風の名前をつける親が増え、「ベトナム人としてのアイデンティティが失われる」として、 名前をベトナム風のみに制限する法律を策定する動き も出てきたので、現在は受け付けてもらえない可能性が高くなっていると思います。

そして、外国人風の名前であることで、不便なことがあります。日本でもベトナムでも残念ながら、名前が変だから、親が外国人だからなどの理由でいじめられたりするケースがあります。特にベトナムの公立学校に通わせるなど完全にベトナム人社会で生きていくことが想定される場合、ベトナム人の名前はバリエーションが少なく変わった名前が極めて目立つこと、日本以上に横並びを重んじる側面があること、教師の目が勉強以外にあまり向けられていないという日本とは異なる学校環境であることなども念頭に置くべきでしょう。もちろん、これらを考慮した上で日本風に名づける、という選択もあると思います。

ベトナム風でも日本風でもない名前にする

より国際的に通じる名前をつけたい、音のよさを重視したいなどの理由で、どちらの国の言葉でもない名前をつけるケースもあると思います。これも、先に書いたように、現在ベトナム風の名前ではないものをつけることを規制する動きがあることから、受け付けてもらえない可能性がありますし、いじめなどの問題なども考慮したほうが良いでしょう。

 
簡単に改名できない名前は、子供の人生そのものにかかわる問題です。夫婦で納得いく方法でつけられるとよいですね。

 
さて、命名方法のパターンがわかったところで、「子供の名字はどうなるの?」という疑問がわいてくるかと思います。次回は、日越カップルの子供の名字 について取り上げたいと思います。

 
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