かまど神オンタオの日
~ベトナムの旧暦12月23日~

2016年02月01日公開

テト(旧正月)の元日の1週間前、旧暦12月23日はベトナムで 「オンタオの日(Ngày ông Táo)」、「オンコン・オンタオの日(Ngày ông Công ông Táo)」、「Lễ cúng ông táo về trời(オンタオが天に帰るお供えをする祭り)」 などと呼ばれています。元々は中国から伝わった習慣で、かまど(台所)の神であるオンタオを祭る日となっています。各家庭に宿るかまど神はこの日、天に戻って上帝にその家であった良いこと・悪いことを報告し、大晦日の日にまた家に戻ってくるとされています。この日を迎えると、各家庭では本格的にテトに向けた準備が始まります。

今回は、この日はいったいどういう日なのか、紹介したいと思います。


© NgBK

オンタオという神様は一人じゃない!?

オンタオの意味ですが、ôngは「様」にあたる男性への敬称で、Táoは漢字だと「竈(ソウ、かまど)」です。中国語で「竈」は「灶」と書かれ、オンタオは「灶君」または「灶神」と呼ばれており、ベトナム語では「灶君」をベトナム音読みして「Táo quân(タオクアン)」とも言います。

実は、オンタオは一人の神様ではなく、3人で一つの神を形成しています。中国でも三位一神として祭られていますが、この神の起源についてベトナムでは独自の発展を遂げました。これは後ほど詳しく紹介します。なお、日本でもかまどの神の信仰があり、神道でも「竈三柱神」つまり三位一神となっています。

  • よく日本で「吐君節」と紹介されていますが、 おそらく中国語の「灶」を「吐」と勘違いしたためだと思われます。中国ではこの日のことを「祭竈節(さいそうせつ)」と呼ぶので、こちらを使うほうが日本語でもわかりやすいかと思います。

オンタオの乗り物、北は鯉、南は馬と鷺

かまどの神様の日には、紙でできた衣装一式を3セット、生きた鯉、おこわなどを祭壇に供え、衣装一式を燃やし、灰と鯉を湖や川に放つのが慣わしです。ただし、小さめの赤い生きた鯉を放つのは北部を中心とする習慣で、元々南部では、走るのが最も速いと考えられている馬と飛ぶのが早いとされる鷺(さぎ)がオンタオを天に連れて行くとなっているそうで、鯉を供えることはなく、馬と鷺の絵が描かれた紙を燃やします。

また、南部に北部出身者の中には、食用の鯉を買ってきてお供えし、その後食べてしまうというのもよく聞きます。南部ではあまりお供え用の生きた鯉が売っていないので食用のものを買ってきて、川に捨てるのはもったいないから食べるようになったのだと思われます。


© VIETJO Life, オンタオに供える衣装一式。下のほうに見えるのは靴

なお、筆者のベトナム人夫の実家(中部)でも、鯉を供える習慣はないとのこと。昔は簡素な石と土でつくったかまどを使っており、お供えの紙をかまどで燃やした後、灰ごとかまどを捨てて、新しいかまどを作り直していたそうです。

オンタオの物語

オンタオは三位一神となっていますが、ベトナムでは3人の人物がオンタオになったという物語が形成されました。諸説あるのですが、だいたい次のようなストーリーです。

*****

チョン・カオ(Trọng Cao)という男が、ティ・ニー(Thị Nhi)という妻を娶り長く一緒に暮らしていましたが、子供ができなかったため、次第に寂しい思いをしたり、言い争いをすることが多くなりました。ある日のこと、チョン・カオが怒りに任せてティ・ニーを叩いたところ、ティ・ニーは家を出て行ってしまいました。そして、ティ・ニーはファム・ラン(Phạm Lang)という男と出会い、その妻となりました。

しばらくしてチョン・カオの怒りも収まり、叩いたことを後悔して妻を捜しに行きましたが、見つかりません。探している間に持ち金がすっかりなくなってしまい、物乞いをして暮らすようになりました。物乞いをしながらある家を訪ねると、出てきた女性は探していた妻のティ・ニーでした。ティ・ニーもチョン・カオであることに気づき、家に招きいれてファム・ランの妻となったことを話し、申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。

そこへ、ファム・ランが帰ってきました。チョン・カオのことをどう説明するかに困ったティ・ニーは、チョン・カオに庭に積んである藁の中に隠れるよう言いました。すると、帰ってきたファム・ランは、畑の肥料を作るために、藁の山に火をつけました。しかし、チョン・カオはティ・ニーに迷惑をかけまいと、外に出ることなく焼け死んでしまいました。家から飛び出してきたティ・ニーは、チョン・カオが死んでしまったのを見て、自分も燃える藁の中に飛び込んで死んでしまいました。思いがけない妻の行動に驚いたファム・カオも、妻を死なせてしまった自分を責め、火の中に身を投じました。

3人の魂が天の上帝のもとに届くと、上帝は3人の情に心を動かされ、ファム・ランにかまどを守る役割を、チョン・カオに家を守る役割を、ティ・ニーに小商いを守る役割を与え、三位を合わせた「タオクアン(Táo Quân)」としたのでした。

燃やす「紙一式」ってどんなもの?

ベトナムではお供えに、紙でできたお金や道具などの冥器を燃やします。この冥器のことをベトナム語で「vàng mã(ヴァンマー、偽物の金)」と言います。


© VIETJO Life, 冥器などを売る店

紙でできたお供えの帽子と衣装一式は結構大きいですし、値段も張るのですが、ホーチミン市1区で冥器を売るお店にきいたところ、これを簡素化した紙一式を燃やすのでもOKとのことだったので、買ってみました。


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これがその紙一式。5000VND(約27円)でした。左にあるのはお供えに使うお菓子で、1袋1万VND(約54円)。色々質問しているうちに冥器のことをよく知らない外国人であることがばれてしまったため、後で買ったお菓子は高くふっかけられたかもしれません。


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印刷が悪すぎてよく読めないのですが、なにやら経典のようなものと、「Cờ bay ngựa chạy(鷺が飛び馬が走る)」と書かれたお札。ホーチミン市で買ったものなので、馬と鷺がオンタオを運ぶようです。


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金銀に見立てた紙と寿と書かれた紙。


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人の顔がくりぬかれた紙。顔の下の文字は右から読むようで、「貴人指引」「貴人得力」「貴人扶持」「貴人進壽」「貴人進財」と書かれています。ネットで調べても中国語のものしかヒットしませんでしたが、中国で「接引貴人符」と呼ばれるもののようです。案内してくれる人、力を得る人、助けてくれる人、喜ばしいことを運んでくれる人、財を運んでくれる人を呼び寄せるという意味があるのでは、と推測しています。


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中国の「接引貴人符」はそれぞれ一人ずつで、立派ないでたちをしているのですが、ベトナムのは人数を欲張ったからか顔だけ。しかも、人相がちょっとユーモラス。


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こちらは「福禄寿」の神様の紙。


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そして最後はオンタオです。衣装の形をしているので、衣装一式をかねていると思われます。

 
オンタオに家の中の悪いものを報告されたら困ってしまいますが、足を用意して貢物をするということは、やっぱり「上帝には良いことを報告してね」ということなんでしょうか???? 色々興味はつきません。地域ごとに祭礼の様式がかなり違うようですので、皆さんの身の回りの「かまど神オンタオの日」をぜひじっくり観察してみてください。

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