データでわかるベトナム

【第51回】テクノロジーで変わるベトナムのパパママストア営業

2021年04月14日公開   2021年04月14日更新

ベトナム市場の特長の一つとして、個人商店(パパママストア)が多いことが挙げられます。ここ数年で都心部を中心にスーパーやコンビニなどが増えたとはいえ、小売売上の半数以上がパパママストアによるものだと言われています。こういった店舗では店舗オーナーが必要なときに電話やチャットで商品を注文したり、メーカーの営業マンが足繁く訪問したりという形で商売が成り立っています。

デジタルサービスによる流通改革

そんなパパママストアの商売の形に現在大きな変化が起きようとしています。近年、パパママストアの注文をデジタル化する動きが広がっています。現在市場にはいくつかのサービスが乱立していますが、特にビングループの系列会社がスタートした「 VinShop 」は業界の大きな注目を集めています。

VinShopは、パパママストアのオーナーがアプリを使って注文・決済を行うことができるサービスで、「商品の価格が安い」「複数の商品の注文が一つのアプリで行えて便利」「翌日配送」などのメリットに加えて、「一定期間無利子での融資提供」などのファイナンスサービスまでをカバーしており、VinShopは サービス開始から7ヶ月で5.5万店舗のパパママストアに導入 が進んでいます。

実際にVinShopを導入した店舗のオーナーさんに使い勝手を聞いてみると興味深い話が聞けました。彼らが 最も満足しているのが「価格」 の部分です。プロモーションなどで廉価に購入できる商品が多いことからオーナーの利益向上に直接的に繋がります。「安いから使う」というのはVinShop利用の直接的な理由となっています。一方で、配送については「翌日配送」という特長はそれほど店舗オーナーには響いていないように感じました。ベトナムには電話をすれば数時間で配送してくれるようなフットワークが軽い業者がいくつもいることから、特に大規模なパパママストアのオーナーにとっては 翌日配送は当たり前のサービス と捉えられています。最後にアプリの使い勝手ですが、使い方は簡単なのですが、オーナーは メーカーの営業と会話をしながらの昔ながらのスタイルの方が総じて好き なようです。プロモーションや新商品などの営業マンが届けてくれるのと同等の情報はアプリでプッシュ通知されるのですが、利便性だけを追求した新たなやり方には違和感を感じている様でした。「昔からの慣れたやり方が良い」というのはこういった新たなデジタルサービスの一番の障壁となっています。

VinShopが掲げる4つのメリットに関してまとめると下記になります。金融サービスについては利用店舗が少なく話を聞くことができていないのですが、ベトナムのパパママストアは法人口座などを開設していない店舗も多く、ひょっとすると今後のサービス拡大のキーになるのではないかと考えられます。

一方で、メーカーの方に話を聞いてみると、ホーチミン・ハノイは自社でカバーできているので、地方の発注を任せられるのであれば興味がある…という会社がほとんどです。VinShopや類似のサービスは収益性の見込める都市部に集中しており、サービス地域に関して需要・供給のミスマッチがあるのが現状です。

VinGroupとしての今後の展望

現状から鑑みると乗り越えるべき障壁が大きいVinShopのサービスですが、彼らは 2025年までには35万店舗までサービスを展開 するという野心的な目標を挙げています。彼らがそこまでこのサービスに力を入れるのは、 小売サービスのデータに価値を感じているから だと考えられます。VinGroup全体として市場の「データ・AI」に現在物凄く投資をしており、VinShopサービスを通じて得られるデータも彼らのエコシステムの一部となります。小売のデータを大規模に収集し分析することで、精度の高い需要予測・物流最適化といって今のベトナムの流通と別次元のサービスの実現を目指しているものと考えられます。

株式会社Asia Plus代表取締役社長 黒川賢吾

株式会社Asia Plus ( www.asia-plus.net )代表取締役社長。

NTT、ソニー、ユニクロにて海外マーケティングを担当。

2014年にAsia Plusを設立しベトナムマーケットリサーチサービス「Q&Me( www.qandme.net )」を展開中

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